私が最近ヴァシュロンのなかで最も気に入っているのが、コンプリートカレンダー複雑機構だ。これはオート・オルロジュリー(高級時計)のあなかでも他メーカーにはお目にかからないものであるし、永久カレンダーよりもはるかに手頃な価格で、興味深い外観と調整プッシャーを操作する楽しみを提供してくれるからである。パテックのRef.5327Jは1060万4000円、ヴァシュロンの永久カレンダーのひとつであるパトリモニー・パーペチュアル・カレンダー・ウルトラシンは994万4000円と、それほど安くはないが、少なくとも私にとっては、ヴァシュロンのCal.1120QPの方が興味深いムーブメントだと思わせてくれる。Cal.1120ベースのムーブメントは、オーデマ ピゲが採用しているCal.2120をヴァシュロンが改良したムーブメントで、現在でも世界で最も薄いフルローターの自動巻きムーブメントの称号を保っているのは、1967年に設計されたキャリバーとしては驚くべきことである。
とはいえ、高級時計のコンプリートカレンダーは他メーカーでは手に入らないので、この比較はやや無意味だ。唯一指摘できるのは、当たり前のことではあるがそれでも指摘する価値があるだろう‐かつての永久カレンダーの価格帯に設定されている点だ。まあ、高級時計の永久カレンダー市場全体の価格が上昇していることや、現時点ではコンプリートカレンダーがほぼヴァシュロンの独壇場であることを考えると、トラディショナル・コンプリートカレンダーの通常モデルとオープンフェイスモデルの価格は、適正価格の範囲内であると言える。
この時計の欠点は、次の2点だけだ。時計愛好家歴が長い人にとっては、価格の割に高いと感じるかもしれない‐これが今の世の中だ。ふたつめは、ムーブメントがケースのスペースを持て余してる点だ。このムーブメントは11 3/4リーニュ(直径約26.5cm)で、腕時計のムーブメントとしては標準的なローエンドで12リーニュ前後、ハイエンドで13リーニュ以上とされている。41mmケースの中では若干遊びがありすぎることになる。歴史的には少しも問題とならなかったことであるが(ヴィンテージのカルティエを例にとると、EWC社
身近だった20年前とは異なり、手の届かない存在となって久しい他の愛すべき時計たちと同様にではあるものの、私からすると素晴らしい時計である。あとは読者の判断にお任せしたい。